飼い猫と、番犬。【完結】
「……酷いわぁー」
袷を着る私の隣で、布団に潜った山崎が顔だけ出して分かりやすく拗ねている。
さっき咄嗟に髪を掴んで引き剥がした事が未だに不満らしい。
亀みたいなその姿すら意外に可愛いなんて思ってしまう自分が悔しくて、唇が尖る。
「……すみませんてば」
そりゃ手加減出来ませんでしたけど、朝っぱらから盛りをつけた方も方ですからねっ。
それに朝稽古だってある。
二人して出なかったりしたら、これまで散々人の噂で盛り上がった皆の豊かな妄想力が遺憾なく発揮されるに違いない。
考えたくもない想像に身震いしていると、後ろからまた不満げな声が届いた。
「朝の運動しよ思たのにー」
「う、運動とか言うのやめてくださいよっ」
身も蓋もないっ。
まぁかといって生々しい表現をされても困るのだけれど。
「でも実際結構な運動やったやろ。自分かて最後は疲れ果てて寝落ちたやん。あ、それとも良過ぎて気ぃ失うただけ……」
「わー!もう昨日の事は言わないで良いですからっ!」
もー嫌ですこの人!
こうして朝を共にしているだけでも気恥ずかしいというのに、平然と夜のことを語られては堪らない。
そんな精一杯の非難を込めて思い切り布団を叩いた……筈だったのに。
「泣いてるそうちゃんも可愛かったで?」
気付けばまた山崎の腕の中へと逆戻りしている私。