飼い猫と、番犬。【完結】
「こいつにゃ色々手伝ってもらうんだよ」
と顎で指された先にいるのは言わずもがな。
にっこりと笑い、まるで俺だよと主張するかの如く顔の横でぴろぴろと可愛く指を動かしている山崎だ。
……、は?
「何でこいつになんですかっ!?」
絶対嫌だ! 寧ろ進んでばらされそうですっ!
思いっきり山崎を指差して腰を浮かした私に、土方さんは目線も寄越さず近くにあった煙草盆から煙管を取り火をつける。
「お前も見たんだろ? こいつは影だ。今後は監察方として内外の動向を監視してもらう。元々お前のことも話すつもりだったんだよ」
「でもっ」
静かに堪能した煙をゆっくりと吐き出し、指先でゆらゆらと煙管を弄びながらも、私を見た目は真剣だった。
「さっきも山野にヘマこいてやがったろうが。妙な噂が立つ前にいち早く動ける奴が必要なんだよ」
なんて言われてしまうともう反論出来ない。
ぐっと言葉に詰まった私は、視界の隅に見えた黒い塊のような山崎に視線を移した。
背筋を伸ばした美しい居住まいのそいつは相も変わらず前を向いたままだったけれど、その口許にはうっすらと笑みが浮かんでいて、間違いなくこの状況を楽しんでいるように思う。
何故あの疑り深い土方さんがこうもあいつを信用しているのか。
言いたいことは沢山あれど、まずはもう一度山崎と話す必要があるようだ。
「……わかりましたよ。山崎さん、ちょっと顔貸してください」