飼い猫と、番犬。【完結】

元々、空き部屋や物置として使われている部屋が固められた一角のこれまた隅に位置する山崎の部屋。響く足音は一つだった。


それでも少し離れた場所では賑やかな男達の気配を感じる。稽古に向かうところなのだろう。


早く着替えて行かなければ。


昨夜着ていた綿入りを置いてきたことに気付いたけれど、今更あそこに取りに戻る勇気はない。


寝不足な上、朝から妙に重い体で二百畳はあるだろうと思われる広い屯所を部屋へと急ぐ。


耳が痛い程に冷えた空気が少しだけ頭をすっきりさせてくれた。





「……あれ?おはよー総司。どしたのそんな恰好で」



けれど部屋を目前にして、寒そうに肩を竦めて歩いてきたのは胴着姿の平助で。


ちくりと胸が痛む。


あいつの部屋から戻るところを見つかった恥ずかしさ、罪悪感。一気に押し寄せたそんな感情に顔が引きつった。


確かに平助は山崎との仲を知っている。


あれ以来こうして前みたいに普通に話しかけてくれるようにはなったけど、流石に土方さんとの時みたいに軽々しく名を出す訳にはいかなかった。



「……おはようございます。ちょっと急ぎの用があって……急いで着替えますから先に行っててください」


嘘はつきたくないけれど、こればかりは仕方がない。言える訳がない。


極力さらりと何でもない笑みを浮かべてその横を通り過ぎた。





「……総司」
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