飼い猫と、番犬。【完結】
あちらこちらで囁かれるその名前。
流れるような所作、愛想も見目も良く、博識なうえに腕も立つ。皆に一目おかれるのもわからないでもない。
私だって山崎に言われてからも暫くは普通に良い人にしか見えなかった。
けれど今は違う。
あの人が来てからというもの、近藤さんが変わってしまったからだ。
優しいのは優しいのだけれど、言葉の端に以前とは違う傲慢さが見える。
時折昔馴染みの皆にさえ、高圧的な態度を見せる。
前はそんなじゃなかったのに。
──伊東さんが
──伊東さんは
口から出るのは彼の名ばかり。
何だか嫌な感じだった。
「うん、伊東さんも一緒に行くんだって」
やっぱり。
最近の近藤さんはあの人にべったり。意外でも何でもないその事実に益々不信感が募る。
兄であり父である近藤さん。
嫌な変わり方をしていく様子は見ていてあまりに辛かった。
土方さんも変わった。
近藤さんも変わった。
山南さんだってもういない。
皆との仲を壊したくないと京までついてきたのに、一つ、また一つと掌から大切なものが零れてゆく。
言い知れぬ不安が足元から這い上がってくる。
けれど取り残されたような淋しさの中、ふと思うのだ。
私だって変わった、と。