飼い猫と、番犬。【完結】
血に濡れた私。
あの人から離れられない私は、もう誰を想うこともない筈だった。
それが今やあの山崎と恋仲だと言うから我ながら驚きだ。
どこを好きかと言われたら正直自分でもよくわからないけれど、あいつが触れる度に私の中で女の自分が顔を出す。
あいつといる時だけは本当の自分に戻れる。
男と偽り、常に強く、時に無慈悲にならねばならない此処での私にとって、それはとても心地良かった。
甘えなのだとわかってる。
でも移ろい変わりゆく周囲に此処での存在意義を見失いかけた私に、あの甘さは毒であり薬でもあった。
知らない間に全身に回っていたそれに囚われた私は、もう逃げられない。
今の私が求めるのは土方さんでも平助でもない。
あいつなのだから。
「……そうですか、っ、けほっけほっ」
「あぁ大丈夫?風邪かな、そんな薄着でうろうろしてるからだよーーっくしゅ!」
確かにこんな所での立ち話は寒い。
二人して風邪引きらしい私達、顔を見合わせると何となく張り詰めていた空気が僅かに緩んで、どちらからともなく笑みが溢れた。
気不味さはまだあるけれど、それはあいつを選んだ時からわかっていたこと。
こればかりはどうしようもなかった。
「……早くいかないと本当に風邪を引きますよ。私もすぐ行きますから」
「ん、総司も無理はしちゃ駄目だよ」
あとでね、と駆けていく平助に手を振ると、すっかり熱を失った身体がぶるりと震えた。
一人残された私は今度こそ『沖田総司』に戻る為、大きく息をついた。