飼い猫と、番犬。【完結】
穏やかだった。
これまで一所に落ち着く事のなかった俺が初めて塒(ネグラ)としたこの新選組。
一人で裏を請け負っていた頃もそれなりに自由気儘で満足な生活を送っていたけれど、特定の宿主に飼われるのもまた悪くないと思える程に此処での仕事も充実していた。
監察の任も諸士調役の任も粛清の任も、これまでとさして変わらぬ裏仕事。
薬師の真似事までさせられたのは予想外ではあるものの、暇をもて余すよりはマシだった。
そして飽きない女も手に入れた。
当初の目的とは大きく違ったが、慎ましくもたおやかでもないその女は、そこらに溢れる上辺だけを繕う程度の低い女よりも余程そそられた。
一から拓いたその身体は俺の教えた通りに反応する。
屯所だからと律儀に声を押し殺す沖田を鳴かせたくて、ついあいつが落ちるまで攻め立てる俺は、思った以上にその身体に溺れているのかもしれない。
大所帯に加え互いに責任のある身。好きな時に、という訳にはいかないが俺達にはそれくらいが丁度良い。
互いの時間は自由に過ごす。
べったりではないこの関係、それでも時折、自分とは違う温もりが、朝同じ布団にいるというのは心地良かった。
そんな久々な充足を感じつつ、寒の戻りに手を擦ったその日。
仄かな暖かさを伝える火鉢の向こうで飼い主が言った。
「ちょっくら安芸に行ってこい」
と。