飼い猫と、番犬。【完結】
擦り寄ってきたのはそっちだというのにちょっと触ったくらいでしばかれる俺は中々可哀想ではなかろうか。
「ええやん減るもんやなし」
「……どうせ減るものもないですよ」
けれども隣で俺よりも分かりやすく拗ねている沖田に呆気なく毒気を抜かれる。
もーなんやねんこのかいらし生きもんは。
やはり最初の夜以来笑顔を見せることはないのだが、それでもつい構ってやりたくなるこの感情はきっとあれだ。
幼い頃拾った犬っころへのそれに似ている気がする。
あれは可愛かった、うん。
己の思わぬ原点を見たような気がして一人小さく吹き出しながら、そっぽを向いてしまった沖田に腕を回す。
「大切なんは大きさやないで、色と形や」
「ぶ、ごほっ!?……ちょっと、変態発言は止めてください」
「えーほんまのこと言うただけやのに。あ、あとは感」
「わー!!もう良いですってば!」
ぐりんと勢いよく振り向いた沖田にそのまま絡み付き、手足に力を籠める。
襦袢越しにも混じる体温。
微かに伝わる鼓動が心地良かった。
この素直でない犬っころを暫く見れなくなるというのは少しだけ、淋しい。
「留守居よろしゅう」
「……頼まれなくても」
人一倍温もりに飢えたこいつも同じ思いであるから、今こうして大人しく腕に収まっているんだろう。
そう思えばまた笑えてくる。
そんな自分が尚、笑えた。
「ちゅうことで最後にもっぺん」
「しませんよしません絶対にしませんもー無理です!」
願わくは次会うまでにもちっと体力を。