飼い猫と、番犬。【完結】
月に叢雲、



春。甘い薫りで行き交う人を誘っていた梅もいつの間にかに溢れて、桜が咲いた。


満開を過ぎ、雪のように舞い散るその淡い花弁が通りを歩く私達を軽やかに追い抜いてゆく。


暖かな空気を突き抜けていく冷たい風。


髪を浚ったその風にひやりと首許が冷えて、全身に震えが走った。




「こほっこほっ」

「大丈夫ですか?沖田組長」

「ええすみません、大丈夫です」



心配そうに窺いくる山野さんに笑顔を返してまた前を向く。心配性なのは相変わらずだ。


まぁでも確かに今回の咳は少し長い気もする。


いつからでしたっけ。


時たま溢れるそれにすっかり慣れてしまって思い出せない。



「今日は風が冷たいですねー」

「そうですね、夜はもっと冷えますよ」


結局わからないまま、再び吹いた冷たい風に山野さんと二人で首をすぼめる。


すーすーと風通りの良い首。
けれど寒さとは違う事を考えながら、そっとそこに触れた。


冷えた指先から甘い熱が拡がる。



あれから一月。


身体を重ねる度にあいつがしつように痕を残したそこは、もう何もなかったかのように真っ白だ。


恥ずかしくて仕方なかった筈なのに、今となっては不思議と淋しくて。


首がやけに涼しく感じるのはその所為なのかもしれない。




……なんて。何か色々駄目な気がします、私……。
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