飼い猫と、番犬。【完結】
「わっ!?驚かせないでよ土方さんっ」
「おめぇが勝手に驚いたんだろうが」
誰一人気配に気付いていなかったその人は、慌てて飛び退いた平助を白い目で見やる。
呆れた顔は怒ってるという訳じゃなさそうだし、こっちも別に悪いことをしていた訳でもないのだけど、つい飴を袂に仕舞ったのは驚いた時の反射だ。
……びっくりした。
まだ胸がどきどきと脈打ってる。
最近は大分普通に接する事が出来るようになってきたとはいえ、やっぱりまだ多少の気不味さはある。
罪悪感に近いそれは中々消えてくれなくて。
突然の登場は心の臓に悪い。
「つうかおめぇら、くっちゃべってる暇があんなら誰か壬生寺までひとっ走り行ってきてくれ。明日の調練の件で急ぎで頼みてぇ事があんだよ」
土方さんはと言えば、何でもない顔で懐から文を取り出す。
しかも二人の間を割って差し出されたそれは必然的に私の方を向いていて。
「じゃあ私が」
手が、出た。
隊の事なら尻込みなんてしていられない。その為に私は此処にいるのだから。
なのに。
「おめぇはいい。まだ風邪が治ってねぇんだろ、ちゃんと休んどけ」
意外だった。
近藤さんの代わりも勤める今、忙しそうなこの人と顔を合わせるのは朝の稽古と隊務の指示、報告の時だけ。
まさか気付かれてるとは思ってもみなくて、何となくこそばゆさが湧き上がる。