飼い猫と、番犬。【完結】

思いの外見られていたのだと気付けば色んな思いが入り交じって、無意識に首筋に触れていた。


間違いなく見られていたんだろうなと思うと、今更ながらにどんな顔をしていいのかわからずに目が泳ぐ。



「……副長、俺が行きます」

「夜の巡察もあるってのに悪ぃな斎藤。どっかの子猿に頼めりゃ良かったんだが」

「ちょ、子猿ってなんだよっ!じゃー最初から俺に言えば良いじゃんかっ。……いいよ一くん俺が行くよ、どうせ非番だし」

「猿みてぇな頭してっからだろ。んじゃまぁ宜しく頼む」


そんな私を置いてけぼりにして話は進み、結局平助が文を受けとった。


忙しいんだろう、むくれた平助がその文を懐に仕舞うのを見ている間にも土方さんはもう後ろを振り向きかけていた。



「……あー」


けれど何かを思い出したようにその足を止めて、何故か私の方を向く。


その声につられて目をやった私はばっちりと目が合って。


感情の読めない双眸に少しだけたじろいだ。



「貰いもんだ、どうせ食わねぇからやるよ」

「……え?」



差し出されたのは菊の御紋が捺された紙袋。


受けとれと言わんばかりに顎で促された私はおずおずとそれを手に取る。


「組頭が風邪っぴきなんて気が緩んでる証拠だ。さっさと治せ」
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