飼い猫と、番犬。【完結】
「……すみません」
「じゃあ平助頼んだぞ」
呆気にとられた私の言葉には反応せず、すぐに平助に視線を移した土方さんはそのままスタスタと縁側を戻っていく。
言われたことは全く以てその通りで反論の余地はない。
でもその不機嫌な顔にこれまでのような距離を感じることがなかったのは、そこに確かな懐かしさを覚えたからだ。
決して少なくない時をあの人と過ごしてきた。
あの顔を、私は知ってる。
「……飴」
残された袋の中に入っていたのは夕刻の空を思わせる、綺麗な色をした飴。
今日三度目となるその頂き物にじわじわと笑いすら込み上げてくる。
「あ、それ桂飴だよ。最近島原で流行ってるやつだ。そんなとこで貰った飴とかあげる?ふつー」
「……詳しいな平助」
「へ?や!俺は組の連中連れて呑みに行ってるだけだからねっ!?」
やましいことはないから!、と必死に訴える平助の本当のところは兎も角として。
……土方さんらしい。
そう思った。
あの人がたまに島原に通ってるのは周知の事実。
でも昔から甘い物は苦手だったし、物に頓着せず誰かにあげてしまえるそれも相変わらずだ。
以前なら、他の女の人に貰ったものなんてと絶対に良い気はしなかったに違いない。
でも今は逆にストンと胸に落ちた。
あの人の中で今の私はそう出来る位置付けにいるのだと納得した。
心につかえていた小さな棘。
それが漸くなくなったような気がした。