飼い猫と、番犬。【完結】
近藤さん達が西に下るのと同時に姿を消した山崎は、てっきり近藤さん達についていったのだと思っていた。
なのに近藤さんと尾形さんが戻ってきても。
それから少し遅れて伊東さんと篠原さんが戻ってきても。
あいつの姿を見ることはなかった。
暖かな春の嵐に花弁を奪われた桜の木は鮮やかな新緑に変わり、気付けば紫陽花が露に濡れていた。
冬から春、そして夏。
何の便りもないまま季節だけが過ぎていく。
何かあったのだろうかと不安が過ったこともあったけど、それなら必ず土方さんから皆に伝えられる。生きていることだけは確かだった。
「忘れちゃえば良いのに」
平助はそう言うけれど、会わない時が長くなればなる程逆に考えてしまう。
賑やかで忙しい毎日。
それでも夜一人になると一抹の淋しさが胸に吹いた。
悔しさはとうに消えた。
意地を張る相手は長い長い任務中。そりゃ素直にもなれる。
「……こほっこほっ」
未だに風邪は治らないまま。
夜は、怖い。
昼間とは違う思考に囚われて何もかもが不安になる。
私という人間が最も弱くなる刻。
「……早く」
会いたいな。
寝返りをうって瞼を閉じる。
会いたい、そう思っていれば他の事を考えなくて済むから。
静かな夜。
いつからかあの黒い男の事を考え眠るのが私の日課になっていた。