飼い猫と、番犬。【完結】



歩いて、歩いて、蹴飛ばして。


漸く京の地を踏んだのはそれから六日経った夕刻のことだった。


延々と西国街道を進んできた俺達は町の中心こそ通らなかったものの、長く慣れ親しんだ上方の空気はやはりどこかほっとした。


お西さん(西本願寺)に入るや否やぱたりと動かなくなった吉村の代わりに一人で副長に帰屯の報告をして。


今日は休めと話を明日に俺を解放してくれたその人の部屋を早々にあとにし、屯所を回る。


そうして出した一つの結論に、俺はとある場所へと向かうことにした。


それは、この屯所に後付けされたが故に下駄を履いて回り込まねばならぬ場所。



湯煙漂うあの場所だ。






「邪魔すんでー」



湿り気を帯びて滑りの悪い木戸を開ければ、白い湯気の向こうに見えた纏め髪。


今まさに湯船に浸かろうとしていたのか、掛かり湯を浴びながら顔だけが此方を向く。


「…………は?」


何が起きたかを理解出来なかったらしく、暫し固まった沖田は僅かに開いた口から小さく声を漏らした。


「さっき戻ってん。疲れたしまずはひとっ風呂浴びよ思て。自分やったらええやろ?」


長旅で疲れた俺。
今日くらい幹部より先に入っても文句はないだろう。


幸いこれが入っている時は誰も此処には近寄らない。


のんびり話も出来る。
一石二鳥だ。





「……い、良い訳あるかー!」
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