飼い猫と、番犬。【完結】

素晴らしい狙いと速さで顔目掛けて飛んできた湯桶。


勿論普通に受け止めたのだが、その間に湯船に身を沈めた沖田は、くるりと髪を纏めた後頭部だけを俺に向けている。


素早い。



「さっさと出てってくださいって言うか少しは隠しなさいっ」

「ええやん、どうせ何べんも見てんねんし。それともなんなん、怒ってんの?」

「そーゆー問題じゃないんですっ!もー怒ってないから早くどっか行ってくださいっ」

「長旅で疲れて戻ってきたっちゅーのに酷いやっちゃなーほなまぁそんままそっち向いとったらええやん」

「っ!?」


二人で入ってもまだまだ余りある広さの此処。


計らずも手に入れた桶で湯を掬えば、すぐ近くにいた沖田はしゃがんだままで逃げていく。


首の後ろが赤いのは湯船に浸かった所為だけではなさそうで。


久々に見る相変わらずなそいつに口角を上げた。


「入り直すんとか色々無駄やろ。ちょいそこで待っとき」


浴槽の隅で壁を向いたまま静かになった沖田。


放っておけば一人で茹で蛸になりそうなそいつに手早く体を洗うと、俺もまた湯船に身を沈める。


ほぼ一番風呂というべき暖かな湯が疲れに固まった全身に染み渡る。


宿場ごとに風呂屋に通っていたとはいえ、こうして広々と浸かるのはまた格別だ。






「そーちゃん」
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