飼い猫と、番犬。【完結】
稽古が終わり、朝餉を食べて。
運良く非番だった私は広縁を部屋へと歩いていた。
未だ昨夜の疲れが残る体は重くて眠くてへとへと。どんな稽古や捕り物よりあいつの相手が一番足腰にくる気がするのは気の所為じゃない筈だ。
とりあえず昼まで寝ましょう。
考えないといけないことはある。あいつが帰ってきた以上、いつまでも隠し通せるものじゃない。あいつならその内気が付くだろう。
……でも。
胸中に渦巻く相反する思いが足をすくませる。
これまで夜な夜な考えては見ないようにしてきた事実。
それを知ってしまえば全てが変わってしまう気がして……怖い。
もう少しだけ。
鳴き喚く蝉の声に意識を委ねて立ち止まった私は、流れる雲を見上げた。
鈍色の雲が足早に空を渡っていくのが見える。
「今日は雨が降んなぁ」
「……そうですね」
いつの間にか側に立ち、同じように空を見上げる黒い影。
突如視界の隅に入り込んでくるその登場にも前程驚かなくなっていた。
長期の隊務から戻って一日、恐らく今日は非番なのだろう。昨日からずっと近くにいる気がして、何か擽ったい。
こいつも、少しは淋しいと思っていたんでしょうか。
「眠いやろ、昼寝せぇへん?」
「……しようと思ってたとこです」