飼い猫と、番犬。【完結】

珍しく可愛らしいお誘いが。


昨夜とは打って変わったその誘いを口端で笑って、手を引かれるままに狭い廊下を進む。


良く考えればこうして手を引かれることも初めてかもしれない。


そう気が付くとじわじわと頬が熱くなる。


ずっと会っていなかった所為か、我ながらどうもこいつに対する反応が異常だ。


振り返りませんように。


前にも増してドキドキと五月蝿い胸に大きく息を吸い込んでいるうちにも辿り着いた山崎の部屋。


戸の閉まる音と同時にひょいと抱き抱えられた私は、驚きについ目を見開く。



「昼寝の前にいっちょ軽ぅ運動を」


……やっぱり可愛くない。


極上の笑みで私を布団に下ろすそいつに白い目を向けて、近付いてきた唇を横へと避けた。



「い・や・で・す!!」

「ええやん、気持ち良ぉ寝れんで?」

「余計に疲れるの間違いですからね!」


流石の素早さで袴の紐をほどく山崎のお嫁さんが逃げたのは、こいつのこーゆーところが原因ではなかろうか。


そんな余計なことを考えつつ、上に覆い被さるそいつの動きを封じるべく、力一杯抱き付く。


ぐえ、と苦し気な声が聞こえたけれど仕方ない。


本気でやらねばこの色馬鹿は止まらないのだから。




「……たまにはこうしてのんびり寝たいんです」
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