飼い猫と、番犬。【完結】
「口吸うくらいは許しぃや?」
返事も待たずに触れてくる山崎はやっぱり山崎だ。
だけど夜のそれとはまた違う、穏やかでびっくりするくらい優しい口付けには抵抗なんてする気も起こらない。
寧ろその気持ち良さにくらくらして、もっとこうしていたいと思ってしまう。
会えなかった淋しさとか平助の事とか自身の事とか。
そんな事がどうでもよくなるくらいに今ちょっと幸せで。
すぐ側で触れる山崎の長着を引き寄せるように、きゅっと握り締めた。
いつしか外では雨が降り始めたらしい。
細かな雨粒が重なる音が静かな部屋に微かに聞こえる。
そんな音を聞きながら、互いに欠伸が溢れるようになってきた頃だった。
「……こほっこほっ」
それは思いの外はっきりと響いた。
「……昨日もしとったな。また風邪引いたんか」
「……ええ」
「んー熱はようわからんけど……まぁあとで感冒薬やるさかいに飲んどき」
適当そうに見えて、わりと仕事や頼まれ事においては真面目なこいつ。
こつりと額を合わせて熱を見て欠伸を溢した山崎は、まだ気が付いていない。
この咳は、最後に会った時から続いてる。
医学の知識なんてない私でも流石に普通でないということはわかる。
というかこれは似てるのだ。
あの人が……土方さんが労咳を患った時の症状に。