飼い猫と、番犬。【完結】
まだ、そうだと決まった訳じゃない。咳以外はこれまでと殆ど変わらないのだから。
……例えそうでも、一人で里に返されるのは嫌だ。
そんなこと皆に知れたらきっと今度こそ帰れと言われる。
刀を差した以上私にだって意地がある。責任もある。今更組を放って一人寂しく余生をなんて絶対に真っ平だ。
私はもう、一人になんてなりたくない。
「……本当に、大丈夫ですから」
小さく笑って、またその体に身を寄せる。近づいた時にだけ薫る山崎の匂いにほっとして、再び目を瞑った。
この人は、何と言うんだろう。
黙っていた事を怒るのだろうか。やっぱり、帰れと言うのだろうか。
こんな私でもまた誰かを想えるのだと気付けたのに、やっぱりまた、側にはいられなくなるのだろうか。
考えれば考える程怖くなる。
「こほっ」
込み上げるこの咳が恨めしい。
どうして私が。
そうだという確証はない。
けれど一度芽生えた不安は真っ黒い墨のように私の心を侵食する。
嫌だ。
どこまで行っても闇。
そんな抗えない何かを感じて震えそうになる体を、山崎の温もりで誤魔化す。
……まだわかりません。
土方さんだって治ったのだ、私だって治るかもしれない。
いつもの風邪かもしれない。
まだ、わからない。
そう言い聞かせてゆっくりと深呼吸する。
それが夜が来る度繰り返される思考の、いつもの終わり方だった。