飼い猫と、番犬。【完結】


「誰にも言いなや」


俺の言葉に斎藤くんは意味がわからないといった様子で益々眉を潜める。


「……何故」

「まだ決まった訳やない。それにあれ自身もまだ誰にも知られとうない思とる筈や。確認は俺がする。せやから自分は誰にも言いな」


そう念押しすると再び後ろを向いて部屋を出る。もう声が掛けられることはなかった。


彼なら藤堂くんに比べてずっと大人だ、沖田の心情を汲んで一応納得してみせたのだろう。


あいつは……沖田は脆い。


一昨日も昨日も、あの甘えは恐らくその不安に起因するのだ。今話が大きくなることは避けたい。


あれには俺から確認する。


大体のことは何となくわかった。何はともあれまずは沖田と話さないことにはどうにもならない。


なるべく早く。






「……阿呆め」



仕方なかったのかもしれない。
あれも周りも、病に慣れ過ぎていた。


気付いたところでどうしようもない病だ、俺がいたからといって何か変わるかと言えばそうではない。


薄々でも気が付いているならさっさと医者にかかれば良かったのにとは思う。


思うが、あれが此処にいる理由を知っている以上、あれの今の思いもこれまた手に取るようにわかるのだ。


それを、所詮他人である俺がとやかく言うのはまた違う気がする。




「……クソが」


誰にぶつけるでもない言葉を吐き、新たな目的を持って縁側を歩く。


どこかに消えていた蝉の声が、その時漸く耳に戻ってきた。
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