飼い猫と、番犬。【完結】
もう朝四つ半(この時分十時半頃)になるだろう頃合い。
表に出ると、既に天高くから町を見下ろす御天道様に目を眇める。
影に入ろうとすぐ隣にあった細い脇道に向いたところで、沖田がぱたぱたとついてきた。
「あの、今のお代っ」
「ああええよあんくらい」
「でも」
「ええから甘えとき」
よくよく考えれば俺より沖田の方が給金は良いのだろうが、別に俺とて余裕がない訳ではない。
寧ろ花街の女に落としていたことを思えば沖田はずっと安上がりだ。
計らいなのかそうでないのか、そっちの仕事から遠ざかって久しい今、あの甘ったるい香の匂いがどこか他人事のように懐かしく思えた。
「……なんか、今日は可笑しいですよ?」
後ろを歩く沖田が訝しげに呟く。
「こんな機会滅多にないんやしたまにはええやん。恋仲やろ」
「そ……ですけど」
こほ、と咳を溢したのは照れ隠しなのか病の所為なのか。
そんなことを考えながらも不思議と心は凪いでいた。
どちらに転ぶにしろ、結局のところ俺は俺の生き方しか出来ないのだから。
目的地である木屋町の屋敷はもう目と鼻の先。
もうすぐ、全てがはっきりする。