飼い猫と、番犬。【完結】



南部精一郎。
木屋町で開業する蘭方医で、会津藩の典医(将軍や大名に仕えた医師)であり奥医者松本良順の弟子でもある。


以前良順がうちの連中を診て以来、何かと世話になっている人間だ。


話は通してあった。


通された部屋で彼の顔を見て、沖田も連れてこられた意味を察したのだろう、粛々とした様子で彼に従い、此方に言葉を発することはなかった。


彼なら腕も人柄も信用出来る。沖田の事情も理解した上での診察。それは四半刻(三十分)にも満たないあっという間のことだった。


俺の待つ部屋に一人戻ってきた彼は本物の医者。眉を下げながらも柔和な表情を浮かべ、落ち着き、静かに言った。



『労咳で間違いないだろう』



と。















屋敷の門を潜る。
天頂を僅かに過ぎたばかりの日差しはまだまだ眩しく目に痛い。


あれから暫くして戻ってきた沖田は未だ一言も喋らず俯いたまま、ただ俺の後ろをついてくるだけ。


腰に下げた大刀をきつく握るだけだった。




「飯は?」



顔を上げない沖田の手を取り通りを歩きながら声を掛ける。


そいつが微かに首を横に振ったのを確認して俺はまた、前を向いた。



「ほな」

「……ぃ」



か細い声が言葉を遮る。
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