飼い猫と、番犬。【完結】
言いたいことが纏まらないのか、そいつはただ唇を噛んで押し黙ったまま。
物に溢れ、人一人が寝転べる程度の狭い空間しかない部屋だ、手を伸ばせばそれはすぐに届いた。
「自分はどないしたいねん」
柔らかな唇がはっと開かれる。
己の感情を堪える時の癖なのか、何度も強く噛んだらしいそこからはうっすらと血が滲んでいた。
上げられた眼は不安に満ち、泣きそうに怯える童のようで酷く痛々しい。
だが。
「言わなわからん、逃げるんやのうてちゃんと言い。自分は、これからどないしたいんや」
気が強くて我儘で、なのに肝心なところで自らを抑え込むこいつ。
気丈にあろうとする見せかけの強さの下には儚く脆いこいつがいる。
死病と言われる病に侵されている現実は辛いかもしれない。
けれどその事実を見せたうえで、わかったうえで選ぶからこそそれは自らの本当の選択になるのだ。
刻限があるなら尚のこと。
「自分はどう生きたいねん?」
それは己で決めるべきだ。
「……わ、たしは」
じっと俺を見ていた沖田の目が、再び逡巡するかのようにゆらゆらと震える。
差したままの大刀を握る手に力が籠められ、そいつはまた眉を潜めて唇を噛んだ。
けれどそれは一瞬で。