飼い猫と、番犬。【完結】
「……私は、これまでと変わらずあそこにいたいです」
小声ながらもそう言い切る沖田の声は落ち着いていた。
「里に返されたって快く迎えてくれる家族なんていません。なら私は少しでも長く皆と一緒にいたい」
ずっと黙りこくっていた沖田は俯きながらも堰が切れたかのように饒舌に話し出す。
「私は人斬りです。女であることを偽り刀を握った、これがその業だというなら甘んじて受け入れましょう。ですがそれなら最後まで己の責は果たします。甘いのはわかってます、そのうち皆に迷惑をかけるかもしれない、いえ、かけるでしょう。そうなれば捨て置いてもらって構いません。ですから私は──」
「ほなそうしたらええ」
つらつらと思いのまま早口で捲し立てる沖田の言葉を遮ると、やっとその目が上げられた。
俺の言葉を理解しかねている、そんな表情で僅かに目を開いたそいつに片口を上げるだけの小さな笑みを返した。
「自分の生き方を決めるんは自分や、したいようにし」
俺も人の子だ、やり場のない悔しさがない訳ではない。
緩慢に、だが確実に衰えてゆくだろう沖田を見続けるというのは想像以上にもどかしいことなのだと思う。
けれど自由に生きるのが俺の信条、こいつがそう決めたのならもうそこは俺があれこれ口出しする領域ではない。
今、俺が出来ることは一つだ。
「他の連中にはバレるまで黙っといたらええ。俺が手つどうたる」