飼い猫と、番犬。【完結】
さっき南部には話をつけてきた。大樹公について今大坂にいる良順にも昨日のうちに仕立飛脚(一件の為に走る高額の飛脚)を走らせ文を送った。
斎藤くんなら勝手に漏らす心配もない。あとは俺が黙っておけば良い。
例え他の連中に恨まれたところで所詮それは他人の勝手な想いだ、幾らでも憎まれ役になってやろう。
「俺はしたいことしかせん、それは自分もよぉわかっとるやろ。好きに生きて好きに死ぬ、それの何があかんねん」
半信半疑な様子で固まる沖田に手を伸ばす。
「迷惑やなんて思いな、これまでと何も変わらんだけや。せやろ?」
赤い唇。
再び力の入っていたそこを親指でなぞると、はっとしたように僅かにそれが開かれる。
これまで一人で抱えてきた不安はそう容易く拭えないのだろう。
この期に及んでまだ迷い悩むあたり、こいつらしいと言えばこいつらしいが、これ以上俺から言うことはない。
「ほん、とに……?」
頼りなく震える声と身体。
産まれた時から人並みから外れてしまったこいつを思うと、神というのは本当に残酷だ。
だが今こいつが頼るのが俺だけしかいないと思えば、不思議と微かな高揚感にも包まれた。
この感情は何なのだろうか。
「嘘や思うんやったら確かめてみ」