飼い猫と、番犬。【完結】
体温の確認なのか、奴の手の甲がするりと触れていった頬が妙にむず痒くて仕方ない。
照れ隠しだと自覚しながらそこを指で掻くと、無理矢理山崎の手にした紙へと視線を移した。
「……それはなんですか?」
「これ?副長から勘定方への熱烈な恋文や。見るか?」
「……いえ、結構です」
なんか絶対に見てはいけない気がします。
その言い回しと言い満面の笑みと言い、無理を押し付けようとしているのは一目瞭然。
こんな時は大抵近藤さんの女絡みだと決まっているのだけれど。
……、あまり深く考えるのは止めておきましょう。
昔も、あの人が日野に残した家族も知っている私は、考えれば考えるだけ憂鬱になってしまうそれを大きな溜め息と一緒に吐き出した。
今の私は人のことで気を揉むだけの気力はない。
「っ、こほっこほっ」
「自分今日は非番やろ、部屋で昼寝でもしとき。夜また飯食うたらうち来ぃや」
そんなことを言いながら、咳が出た私の前髪を混ぜる山崎は優しい……気がするんだけどなんかちょっと引っ掛かる。
「あの、流石にそうちょくちょく夜部屋を空けるのはちょっと」
部屋にいないのは気配でわかるだろうし、周りの、と言うか隣の一くんと左之さんにどう思われてるか……。
気不味過ぎる。
「ほな俺が行こか?」
「へ?……や!それはもっと駄目ですっ」
丸聞こえですもん!