飼い猫と、番犬。【完結】
一人立ち尽くす私の火照った頬を、爽やかな秋の風がひやりと冷たく掠めていく。
少しだけ頭が冷えて、もう一度息を吐き出した。
……阿呆ですよーだ。
病を隠す──本当ならそれはきっと命を縮めることになるのだと思う。
それでも、誰もいない静かな場所でただ過去を思い出しながら死を待つくらいなら、最期が少しくらい早くなったって別に構わなかった。
例えあの頃とは違っても、私の居場所はもう此処にしかない。
それに、私みたいな死病を患った人間に相も変わらず触れられる山崎だって十分に阿呆だ。
投げやりじゃない。捌け口にされているのでもない。寧ろ大切にされている。
ふと沈みがちになる心を、あいつがさっきみたいにするりと持ち上げてくれる。
ちゃんと想われているのだと、本当に以前と変わらないだけなのだと感じられるから……泣きそうになる。
そのうちいなくなる人間なんてさっさと見限って別の人を探せば良い。
そう思うのに私はあの手を離せない。
知ってしまった温もりを手放すのが、怖い。
私が今もこうして此処にいられるのはあいつのお陰だ。
そして、あいつがいるから、私はまだ此処にいたい。
少しでも、長く。
そんなことを考えてしまう私はやっぱり──
「……馬鹿、ですね」