飼い猫と、番犬。【完結】
上役として、ここは恥ずかしがってるだけじゃ駄目だ。
上役としてあるまじきところを見られてしまった分、ここはちゃんとしなければ。
「あ……や、此方こそじろじろと眺めてしまってすみません。なんか意外で」
「っ、ごほっこほっ!」
「だ、大丈夫ですかっ!?」
なんて思ってた心も一気に折れる。
じろじろと眺め……。
じろじろ……あれを。
……倒れそう。
咳なのか噎せただけなのか自分でもわからないそれに慌てて前に出た山野さんを掌で制す。
耳まで熱いこんな顔、あんまり近くで見られたくない。
「大丈夫です」
精神的には大分やられましたけどね……。
これは暫くふとした時に思い出しては腹を抉るやつだ。
突如発狂したくなるあれだ……。
「その、組長は兎も角あの人もあんな顔するんだなぁって驚いてつい。すみません」
そんな私の様子を窺うようにして申し訳なさそうに掛けられた言葉がこれまた若干引っ掛かる。
「……そんなに意外でしたか?」
私は兎も角というのは一先ず聞かなかったことにして。
思い浮かぶのは山崎の顔。
あいつは皆の前でもへらへらしてるし、特に珍しい表情なんてしてなかったと思うんですけど。
どんな風に見えていたのだろうかと気になって思わず聞いた私に、山野さんは少し考えるような顔で目線を下に落とした。