飼い猫と、番犬。【完結】
「んー当たり前なんですけど組長に対しては壁がないというか柔らかいというか……普段あの人そーゆーのあまり見ないんでなんか凄いなぁって」
……そういえば初めの頃はそんなのでしたっけ。
嘘臭い笑みを貼り付けて、いつも一枚隔てた向こうにいた。
猫が捕まえた雀で遊んでいるかのような冷たい感情しか見えなかった。
大嫌いだった、……のに。
いつしかそこにいるのが当たり前になって、こんな風に寄り添えるのだから人というのは本当によくわからない。
「……幸せそうですねぇ組長」
「べ、別にそんなんじゃ」
「またまたー顔に書いてありますよ」
にひ、と少しだけ意地悪く笑う山野さんに唇を尖らせつつも、口許が緩んでいた自覚があるから強くは言い返せなくて。
逃げるように目を逸らした私は掛けられた言葉をゆっくりと反芻した。
……幸せ、なんでしょうか。
死の病を患った今の私。
武家に生まれ、お家の為と性を偽り育てられた私は、将来を約束した筈の恋仲との未来もなくなり、今や名の知れた恐ろしい人斬りとなった。
もう、真っ当な道へは戻れない。沖田総司と呼ばれ、最期まで刀を振るった先にあるのは皆より早い終焉。
それだけ見れば幸せとは言い難いように思う。
けれどやはり不幸だという感情は湧いてこなかった。
過去は過去だ。
あいつのように今だけを見て生きれば私も確かに──
「そうですね、貴方よりは幸せです」
「あ、組長酷っ!そりゃ俺はこの前逃げられちゃいましたけど、今傷を抉らなくたって良いじゃないですか……」
くるりと形勢逆転して項垂れる山野くんも我が一番組の可愛い仲間で。
そんな彼にも頬は自然と緩む。
やっぱり私は幸せ、です。