飼い猫と、番犬。【完結】
「……じゃあ総司に変な痕つけるの止めなよ」
間際、怒りの滲んだ低い声が、俺の足を引き留めた。
「総司はうちの筆頭一番組の組頭なんだ、あんなの、迷惑だって思わないの?」
あくまで声を抑えてあるのはまだ向こうに気配のある沖田に気取られたくないからなのだろう。
その素直であり素直でない様はどこか沖田にも似ていて、想いは違えど二人が互いに惹かれ合うのもわかる気がした。
……ま、せやからから言うて負けてやる気ぃなんてあらへんけどな。
「……ほな聞くけど」
つ、と表情を消してその目を見据える。
「あいつはお前さんにあれが迷惑やて言うたんか?」
体ごと真っ直ぐ向き直った俺に、藤堂くんが微かにたじろいだ。
「それは……でも衿で隠そうとして」
「まぁそやな。せやけどほんまに嫌や思とるもんをそう何度もあいつがつけさせる思うか?」
確かに止めて欲しいとは何度か言われた。夜の名残は何もあれ一つではない、それが本気なら俺だってそこまで無理はしない。
けれど時たまあいつがそこに触れている時の顔は決して嫌がっているものなどではなく、寧ろ喜んでいるかのようで。
だからこそ俺は布に隠れる体だけでなく、敢えて普段触れられるところにも痕を残すのだ。
「迷惑かどうかは俺らが決める、それでええんちゃう?」