飼い猫と、番犬。【完結】
「……ほんと、帰って来なかったら良かったのに」
暫しの沈黙を破ったのは、藤堂くんの溜め息混じりの言葉だった。
「相方が戻らんかったような奴手に入れて嬉しいんかい」
「ああ嬉しいね、それで手に入るんだったら今すぐ殺してあげるのに」
なんて言いつつ、此方に向いたままのその背からは微塵の殺気も感じられなかった。
昔から沖田を知るそいつには無駄だとわかっているのだ。
何をしても決して手に入らないのに想いは消えない。だからそれは形を変えて俺に向く。何故ならぶつける相手が俺しかいないからであって。
そう考えればほんの少しだけ口の端が持ち上がった。
おぼこい奴め。
「阿呆言いな、自分に俺の相手は力不足や。俺やで俺?今まで一本も取ったことあらへん奴が何言うとんねん」
「……いつか絶対一本取って殺るから待っててよ」
「おー茶ぁ飲みながら待っとるわ」
けれども馴れ合うつもりも必要もない。俺達はこれで良いのだ。
さっきよりも幾分怒気を孕んだ声の藤堂くんは、それでも此方は振り向かなかった。
ただその顔を見た沖田が若干おろおろしている。
あれは、俺を笑わせる天才だ。
「……総司」