飼い猫と、番犬。【完結】
ふわりと変わった声音。
「好きだよ」
変わり身激しく穏やかに言ったそいつは沖田に抱き付いたかと思うとそのまま頬に口付けた。
「っ!? へー」
「あいつに飽きたらいつでもおいでね。じゃあ、また夕餉の時に」
慌てふためく沖田だけにそう声を掛けて、何事もなかったかのように廊下の角を曲がっていくあいつはやはり中々の小癪者だ。
上等や。
ふつりと湧くのは対抗心。
最後まで足掻く藤堂くんに唇を吊り上げ凭れていた背を起こすと、あいつを目で追い後ろを向いていた沖田に近付いた。
「やま」
「甘い」
嫌われたくない、そんな思いが頬にとどめさせたのだろうが、どうせあの夜以上のことはないのだから唇にしていけば良いのだ。
そうすれば多少は、自分は男なのだと改めて植え付けることが出来る。
そう出来ないところがまだまだ子供で甘いのだ。
「あ、貴方またこんなところでっ」
重ねた唇を離せば真っ赤になった沖田が腕で顔を隠す。
唇と頬の差は割りと大きい。
「ええやん、減るもんやなし。それよか山野くんはどないしてん?」
「……忘れ物だとかなんかで慌てて戻っていきましたよ」
……逃げたな。