飼い猫と、番犬。【完結】
そんなやり取りののち、結局もう十分に温まったという一くんの言葉に甘えてそのまま借りることになった。
仄かに温もりの残るそれは、確かに冷えきっているだろう自分のものよりもずっと着心地が良い。
ほんの少しだけ違和感を覚えたのは、その綿入りが纏う香りがすっかり慣れたあいつのものとは違ったからで。
以前は感じることのなかった微かな気恥ずかしさに、首の後ろがむずむずと痒くなった。
……考え過ぎです考え過ぎ。
「こほっ、……今日は一段と冷えますね。一くん夜の巡察でしょう?この様子だとかなり冷え込みますよ」
どちらに対する感情なのかわからないそれを誤魔化すように、両手を擦って言葉を紡ぐ。
だからといって特に不自然なこともない、極自然な会話の筈だった。
なのに斜め横に座る一くんは、珍しく眉間に皺を刻んで火鉢を睨み付け黙ったままぴくりともしない。
というか私が話し掛けたことにすら気が付いていないようだった。
「……一くん?」
小首を傾げて名前を呼ぶと、漸くはっとしたように此方を向く。
「……すまない、少し考え事をしていた」
けれどいつもより優しく細められたその目が逆に気になってしまう。
近頃はどうしても山崎といることが多くて皆とゆっくり話をする機会も少なかった。
もしかしたら知らない間に何かあったんでしょうか?
「私で良ければ話くらい聞きますよ……?」