飼い猫と、番犬。【完結】
言葉自体は明け透けなものだけど、決して悪意がある訳じゃない。慣れてしまえばそこに隠れた真意を読み取ることは簡単だった。
「ほれみぃ。これは虐められてよがる類いの人間や」
……調子に乗るのが難点ですが。
「違います。一くんに変なこと吹き込まないでくださいよっ」
「ちゃうこたあらへんわ、だって自分いっつも」
「もー!いいから貴方は少し黙っててください!」
絶対また変なこと言い出すに決まってる!
もう同じ手は食うまいと言葉を遮り、未だに一くんにのし掛かっていたその黒い体を引き剥がす。
思いの外ぺろりと簡単に剥がれたそいつの売り言葉に買い言葉を返していると、一くんは奥二重の涼しげな目を少しだけ大きくして此方を見つめていて。
「……上手くやっているようだな」
と、穏やかな温もりを湛えて微笑むから全身が擽ったい。
そういえばこいつとこんな風に話しているところを昔馴染みの誰かに見られるのは、平助以外だと初めてだ。
過去を知る皆にどう思われているのか不安な部分はあったけど、もしかしたらそれは杞憂であるのかもしれない。
……そう、見えるんですね。
反対されていた訳でもないのに漸く二人の仲を認めてもらえたような気がして、じわりと嬉しさが込み上げる。
一人では感じることの出来ないだろうそれに、私は改めて此処に残れたことの有り難さを思った。
「あながち間違(マチゴ)うてへんけどこれがそー見える自分の感覚は世間様のそれとはもっそい離れてもーとる思うで?」
「それは総司だからだ。俺とて世の感覚は理解している」
「……さらりと酷くないですか一くん……」
例えどんなやり取りでも楽しいものは楽しいのだ。