飼い猫と、番犬。【完結】
涼しい声と共に縁側の向こうから現れたのは伊東さん、……と、その背の高い体に隠れそうになっていた平助だった。
伊東さんと言えば先日、何やら時局の話を語らううちに近藤さんを酷く怒らせたらしくて、今も二人の間にはどことなくぴりぴりとした空気が漂っている。
私には政治がどうとかいうのはよくわからないけど、思想の違いとやらが今頃になって火種になったような気は、する。
刷り込みなのか何となく苦手に思うその人だけど、それよりも今気になるのは後ろに立つ平助のことだ。
伊東さんが見ていたということは恐らく平助にも見られてたということで。
うう、何か変なとこばかり見られてる気がします……。
「かいらしろ?俺にぞっこんやさかいなぁ」
「なっ!?」
「のようですね、普段とはまた違って少々驚きました」
「ちょっ、あの!」
「恋仲にはこないな時間も必要やねん」
「そうですね。では藤堂くん、私達は邪魔にならないよう行きましょうか」
「……、はい」
気不味さに胃が痛みそうな私を無視して進む会話。
聞いてるだけで恥ずかしいその内容に、感情よりも先に反応した頬の熱を自覚したなかで目があった平助は、やはりどこか苦し気に眉を潜めていて。
羞恥に沸いた心も、すぐに逸らされてしまったその目にするすると萎んでいく。