飼い猫と、番犬。【完結】
「……お前、殺ったことはあるか?」
紫煙を燻らせ、その人が問う。
端的、かつ無駄のない言葉だ。
「まぁ片手や足りんくらいは」
幾ら裏家業とはいえ、直接『始末』を依頼されることは流石に少ない。
俺達みたいなのに頼る奴等は大抵は情報を目的とした人間が多いし、殺しだけが目的ならそっち専門の奴等が事を請け負う。
これでも一人細々とやってきた中では多い方だ。
「うちの隊規は絶対でな、犯した奴ぁ粛清だ」
つ、と手にした煙管を己の首許で横に動かすその冷たい目は、直後不満げに細められた。
「だが町じゃ滅法評判の悪ぃ俺達だ、脱走されっと派手には動けねぇんだよ」
荒くれ者の集まり、という認識の域を出ない新選組。確かに内輪で殺しあっているとなれば人々の視線が更に冷たくなるのは必至だろう。
とはいえ隊規違反を見逃しては面目は保てない。
そこそこ腕もあり、秘密裏に事を遂行出来る人間が欲しかったところに──ということらしい。
だが少し気になるのは同じ幹部である先程の二人。
「あのお二方は?」
「隊規はわかってる、が指示は俺が一任してんだよ」
表と裏、っちゅうとこか。
自身が裏を一手に引き受けることで頭を立たせているのだ。それならば例え不満が湧いてもそれは組織の天辺ではなくこの人へと向けられ、組として一気に瓦解することは避けられる。
徹底して鬼になりきる、それは余程の覚悟と意思がなければ出来ないことである。
ええやん、そーゆーの結構好っきゃで?
「俺は言うてくれたら何でもやりまっせ。勿論それなりにヘマせん自信もある。せやけど一個、お願いがありますねん」