飼い猫と、番犬。【完結】
それは今までも依頼を受ける度に交わしてきたこと。
「金打、交わしてもらえまへんやろか?」
俺の言葉に土方副長はぴくりと一瞬、眉を動かす。
志士達が彼方此方で交わすそれを、この人は大切に扱う人種のようだ。
そら好都合。
「これは俺なりの契約なんですわ。俺らみたいなんは所詮使い捨てや思とる人も多い。こっちは魂(タマ)張ってやっとんのに簡単に裏切られたら困りますやん? せやさかいそーゆーことのないよう、相手はんにも魂張ってもらうんですわ」
大事なのは行為そのものではなく、約束を交わしたということを認識させること。
裏切りは死、それを理解してもらう為の簡単な儀式だ。
「態度のでけぇ新人だな」
穏やかに笑む俺を鼻で笑うその人は、言葉のわりにあまり嫌そうではない。
寧ろこの状況を楽しんでいるように見える。
「それなりの覚悟してはる副長はんやからこそ、ついてってもええかな思いましてんで?」
「安い世辞はいらねぇよ」
はっ、と短く笑うと手にしていた煙管を煙草盆に打ち当てその灰を落とす。
刀を握り立ち上がると勢いよく刀身を抜ききったその人は、思ったより熱い人間なのかもしれない。
「いいだろう、お前こそ逃げるなよ? こき使ってやるから覚悟しとけ」
「うわー飼い猫には優しゅう頼んますで」
「可愛くねぇ猫だけどな」
「猫っちゅうんはそんなもんですやろ」
互いに軽口を叩きながら其々の得物を合わせる。
いつもこの瞬間にだけ耳にするか細い金属音にはやはり胸が沸いて、少しだけ気が引き締まった。