飼い猫と、番犬。【完結】
「もっとちゃんと教えてくれないとわかりませんっ」
「阿呆か忙しいんじゃ、いっこいっこ教えてられるかっちゅーねん、見ながら学べ」
……またやってる。
すぐ近くから聞こえてくるやり取りに本を読む手が止まる。
数日前から少しだけ賑やかになった屯所。それに苦笑いするのはきっと私だけじゃない筈だ。
突然の冷え込みに初雪の舞う中、新しく入隊を希望する人を連れて京へと戻った土方さん達。
息つく間もなくバタバタと忙しそうにするその人に押し付けられる形で山崎が教育係りを任されたのが、市村鉄之助というまだ声変わりもしていない少年で。
兄と共に入隊を希望した彼は、若いという理由から一先ず土方さんの小姓となった。
それでこれまで山崎がやっていた諸々の雑務を彼に教えているらしいのだけれど……。
「じゃーもっとゆっくり見せてくださいよっ」
「阿呆、早よせな遅なるやんけ」
……全然教育出来てませんからね……。
その雑な教え方には頬が引きつる。
よくよく話を聞けばどうやら子供はどう相手をすれば良いのかわからないらしく、珍しく疲弊した様子の山崎がちょっと可愛いかったりするのだけども。
流石にあれでは市村くんが可哀想だ。
「……何度も教える方が手間でしょう?もう少し丁寧に教えてあげたらどうですか」
「あ、沖田さんっ。ですよねですよね!ほら沖田さんもそう言ってるじゃないですかっ!」
「……毎回顔出さんでええねん……」