飼い猫と、番犬。【完結】
己の思考に唇を噛み締めていれば不意に懐刀を持つ手が握られて。
はっとして視線をあげるといつもの顔で微笑むその人と目が合った。
「俺は組長を売ったりしません。よくわかりませんが組長の頼みなら喜んでお手伝いしますよ」
どうして。
私の周りはこうも甘い人が多いのだろう。
その優しい声に思わず泣きそうになる。
そんな誘いに思わず甘えてしまいそうになる自分を再び唇を噛んで律し、ふるりと首を振った。
「駄目です、それだと下手をすれば貴方まで何かしらの咎めが」
「構いませんよ」
「私が構いますっ」
「なら、一応脅されたことにしときましょうか」
「っ、わあ!?」
予期せず握られたままの手が引かれて。
刃先に触れたその明らかな手応えに慌てた私はありったけの力で腕を引き戻した。
「なっ、何をっ」
「ッて。や、これでそれっぽくなったでしょう?」
喉に入った真っ直ぐな赤い筋からはすぐに血が伝う。
ゆっくりと起き上がったその人の襦袢がじわりと赤く染まるのを見て、私は急いで枕元に置いていた手拭いを手に取った。
「馬鹿ですか!あんな勢いよく……!」
「馬鹿なのは組長ですよ。俺達はうちの筆頭一番組で、貴方はその組頭なんですよ?もっと堂々と命令してもらわなきゃ困ります」