飼い猫と、番犬。【完結】
私達が屯所として使っているのは二ヶ所。
今回消えてもらった芹沢さん達が生活していた八木さんの家と、私達が暮らす前川さんの家には少しだけ距離がある。
けれど幸い表に人の気配はない。
まぁあんな騒ぎがあれば誰も関わりたくなどないのでしょう。
それが、弱い人間が己の身を守るたった一つの方法なんですから。
……。
「どうした?」
「……や、気の所為だったようです」
今一瞬、雨音が変わった気がしたんですけど……。
降り注ぐ雨に手をかざして屋根を見上げても、黒い闇が只々広がっているだけ。
猫か何か、ですかね。
痛い程に頬を打つ雨に目を細め、ずしりと重たくなった裾を翻すと私は既に塀の向こうに行ってしまった土方さんのあとを追いかけ走った。
その血生臭い湿った夜の一件は土方さんの目論見通り、長州の過激派浪士の仕業、ということになり。内情を知らない一般隊士らの目は外へと向けられた。
これによって新選組の局長は近藤さんただ一人になって、傍若無人な彼らがいなくなったことで土方さんも隊の指揮がとりやすくなる。
加えてお上は水戸学(倒幕派に影響を与えた尊皇攘夷思想の学問)の流れを汲む彼らが消え、今頃そっと胸を撫で下ろしていることでしょう。
上にいけばいく程狡賢さが必要になるのは何処でも同じ。
学のない私には難しいことは考えられません。
だから私は、近藤さん達の手足になると決めたんです。
半ば無理矢理ついてきた私がここで役に立てることと言えば、それくらいしかないんですから……。