飼い猫と、番犬。【完結】
「……貴方は何故そこまでして此処に?」
眉間に刻まれた皺が消え、綺麗な橙色を帯びた夕陽を受けるその顔は男装していても尚、美しい。
長屋で見た女姿も確かに上物ではあったが、俺としては凛としているのにどこか隙を感じる今の姿の方がこれを引き立たせているように思う。
まぁこの地に来る以前より男装していたのなら、この姿の方が馴染んでいても当然だろう。
そして隙を感じるのは恐らくその恰好でいると自分を女だと認識しなくても良いからだ。
……ほんま、土方副長とおらん時は色気のいの字もないやっちゃ。
けれどじっと見つめてくるその目には、何故か先程まであった剥き出しの嫌悪の感情は見られない。
副長と金打を交わしたということが影響しているのは明白。
たったそれだけで──そのあまりの単純さについ笑いが込み上げた。
「……何が可笑しいんですか」
「や? かいらしなぁ思て」
「はぁ?」
顔を歪めながらも僅かに頬の赤みが増した気がするのは、夕陽の所為だけではない。
慣れていないからなのか露骨に女扱いされると弱いらしい。こんな形(ナリ)でも中身は一応ちゃんと女だから安心する。
「やーすまん、ほら俺素直やさかい」
「……そんなことより、さっさと質問に答えてください」
そんな顔で睨まれても怖ないんやけど。
さらりと話をかわす膨れた頬を見るともっとからかってやりたくなるのだが、流石にこれ以上はまた機嫌が悪くなりそうだから止めておく。