飼い猫と、番犬。【完結】
少しして、ガチャガチャと慌ただしく大小を鳴らして表に飛び出してきた人達の最後に、懐かしい姿があった。
平助……。
私の潜む小路を通り過ぎるほんの一瞬だけ見えたその姿は最後に見た時と何も変わっていなくて。
ただ、何故かそこに他の連中のような怒りはなく、どこか複雑な面持ちで前を行く連中の背を見つめていた。
私と同じく旗揚げから新選組にいた平助だ、もしかしたらこれから起こることを理解しているのかもしれない。
否、きっと理解している。
それでいて何も言わず、あんな少人数でその場に向かうのは、諦めて……いるから。
少なくとも平助は伊東さんを慕っていた。
なのにその伊東さんが近藤さんの暗殺を言い出し、今はこうしてかつての仲間に刃を向けられようとしている。
変わっていく周りと自分に挟まれ葛藤する辛さは、私もよく知ってる。
だからこそ平助の気持ちは手に取るように伝わってきた。
……そんなこと、させませんから。
平助にだけは絶対に手を出させない。
今の私にどこまで出来るかはわからないけれど、以前の私と同じく暗い淵にいるだろうその人を、どうしてもこの手で助けたかった。
勿論、今、沢山の人に支えてもらっているこの命を簡単に捨てる気なんてない。
けれど、あまりに動かないこの体を今日十二分に理解してしまったから。
……戻れなかったらごめんなさい。
首に下げた御守りに長着の上からそっと触れて。
私は、一本脇に逸れた道から平助達のあとを追った。