飼い猫と、番犬。【完結】
付かず離れずの距離を保とうと思っても、急ぎ参ろうとする彼らを追うのは簡単ではなかった。
来た道を戻るように延々と。
冷えた体が温もっていくのと同時にどんどん息苦しくなって空気が入ってこなくなる。
「ごほっ……ごほっ!」
溢れる咳を腕に押し付け、滲む涙を乱暴に拭ってただ走る。
ここで見失えば全てが水の泡。
お願い今日だけ……今日だけでいいから動け……!
そう自分を鼓舞し、口内に広がる鉄臭いものを無理矢理飲み込み、少しずつ離されてゆく気配を追いかけた。
七条を真っ直ぐ西へと向かう彼らの微かな足音を必死に辿り暫く。
暗い通りの向こうに彼らの足音が吸い込まれた直後、突如響いた咆哮に、長屋の壁に手を付いていた私ははっと顔を上げた。
──始まった
既に足は震え、正直いつもつれて転んでも可笑しくない状態だったけれど。
平助。
頭に浮かんだその顔に、私はまた、走り出していた。
うちは基本的に勝つこと優先。
優位に立つ為には多勢に無勢も当たり前。
近付く程に感じる沢山の気配に状況を把握して、ただ一人を探した。
苦しさは感じなかった。
小路から様子を窺い見つけた、その月明かりに照らされた癖っ毛は、既に通りの隅で誰かと刃を交えていて。
酷く好戦的なその太刀筋が今を生き急ぐようにも見えて、肌が粟立つ。
そんな私は最早沢山を気にする余裕など皆無で。
だから一瞬、気付くのが遅れてしまった。
その月明かりを映した白刃に。