飼い猫と、番犬。【完結】
後ろめたさからなのか、すっぽりとその腕に収まったきり言葉も発しなかった沖田を取り返し、顎で笠を上げる。
「あとでじっくり話聞かせてもらうで?」
「……はい……すみません」
満面の笑みを浮かべた俺に、居心地悪そうに目を泳がせた沖田は、指で覆面をずらして顔を覗かせた。
だが黒い布の上からではわからなかったものの、その口許には掠れた血の跡が微かに残っていて。
……無理しよってからに。
「阿呆」
「っ!?何するんですか馬鹿っ!」
口付けに見せかけて舐め取ってやったのは藤堂くんにバレないようにというただの親切心なのに、顔面に張り手まで食らわされる俺は中々可哀想な役回りだと思う。
くっそ覚えとけや……。
「総司……」
「平助っ、良かった……!」
結局、もがいた沖田をそのまま下ろしてやると、するりと腕から抜け出したそいつは藤堂くんへと駆け寄り、彼の着物を握って安堵に声を詰まらせる。
何となく、負けた気がしないでもない。
が、対する藤堂くんは複雑そうに顔を歪めてその様子を見つめていて。
どちらの思いもそれなりに理解出来る俺は今だけと、ただ言葉を飲み込み二人を見つめた。
「……総司、ごめん。折角だけど俺、戻るよ」