飼い猫と、番犬。【完結】
「っ、どうして!?」
女であるからなのか。ただ平助を思うが故だからなのか。
声を荒らげた沖田にはやはりわからないらしい。
「……今の俺は御陵衛士だから。仲間を置いて一人だけ逃げるなんて俺には出来ないよ」
逃げは男の恥で。
刀を下げている以上こいつにも矜持があるのだろう、そう簡単に頷く筈がない。
だからこそ俺も、こうして巻き込む形で半ば無理矢理連れてきたのだから。
「でもっ」
「大丈夫だよ、俺だって元組頭だよ?簡単にやられたりしないって。皆と伊東さんを助けたらちゃんと逃げるからさ」
……安っぽい気休めを。
そんなこと、到底上手くいく筈がないのはどう見ても明らかだ。今頃他の連中がどうなってるのかすら怪しい。
沖田とてそれがわからぬ程に阿呆ではない。
藤堂くんの長着を掴む指に力が籠る。
「……平っ!っ、ごほっごほっ」
「ほら大丈夫?また風邪引いてるんでしょ、なんかちょっと痩せてる。駄目だよ総司、しんどくてももっとちゃんと食べなきゃ」
この場に似つかわしくない穏やかな笑みからはそいつの覚悟が見える。
阿呆な覚悟だが……嫌いじゃなかった。
「総司」