飼い猫と、番犬。【完結】
不意に、藤堂くんが沖田を掻き抱く。
その首元に寄せられた顔は苦し気に眉を潜めていて。
やはり、不快な気持ちは湧かなかった。
「……、ごめん」
彼が沖田を抱いたのはほんの僅かな一時。
次の瞬間には鈍い音と共に、沖田の鳩尾にそいつの拳が食い込んでいた。
「へ……」
微かな声を漏らし、沖田の体からゆっくりと力が抜ける。
一部始終を見ていた俺に藤堂くんが視線を寄越したのは、その直後だった。
「乱暴やなぁ」
「……こうするしかなかったんだよ」
このままだと沖田は、何としても藤堂くんが戻るのを止めようとしただろう。
例えをそれを振り切り戻ったとしても沖田を巻き込むのは必至の上に、最悪の場面を目の当たりにさせるのは余りに酷。
確かに、こうするのが最善だ。
「……物凄く癪だけど、総司を頼むよ。もうあんたにしか頼めないしさ」
温かく淋しげな目で腕の中の沖田を見下ろし、そんなことを言ってみせる藤堂くんは今もまだ沖田に心があって。
それでいて全てを受け入れようとしているその潔さに俺は小さく笑って、手を、伸ばした。
「ちょい待ちや」
「ちょっ!?何を──」