飼い猫と、番犬。【完結】
沖田の衿元に指を入れるとすぐに触れた細い紐。
小さな巾着のついたそれをするりと抜き取ると、両手の塞がった藤堂くんの首に引っ掛ける。
「な、何これ」
「見たらわかるやろ、御守りや」
「そりゃそのくらいわかるけど……」
漸くこの手に戻ってきた沖田をよいしょと抱え直しつつ、訝しげにそれを握る藤堂くんへと向き直った。
「残念やけどな、お前さんには逃げてもらうで」
俺の言葉が余程意外だったのか、きょとんと固まったそいつの眉間には見る間に皺が寄った。
「……は?何であんたが」
「これがそう望むからや。もっそい癪やけどな」
少しだけ口許を緩めてさっきの言葉をそのまま返す。
すると益々顔をしかめたそいつは大きく息を吐き出した。
「あんたならわかるだろ、俺は──」
「恥かきたないんやろ。色々諦めたまま恰好つけて死のう思とるど阿呆や。せやけどな、どうせ俺らは人斬りや、今此処で一人や二人見殺しにしたかて大して罪は変わらんで」
所詮、こいつも不自由なく生きてきただけの坊っちゃんだ。
結局は何かから逃げていることを隠して全てを綺麗事で纏めようとする。
潔さは認めるが、これまでずっと生に貪欲に生きていた俺からすれば、矜持やら何やらの為だけに助かるものをむざむざと捨てようとするこいつは阿呆としか言いようがない。
「恥がなんや、誰かの為に死ぬんやったらこいつの為に生きたれや」