飼い猫と、番犬。【完結】
藤堂くんが指の背をそっと沖田の頬に滑らせる。
ゆっくりと、最後になるだろうその温もりを名残惜しむかのようにじっと沖田を見つめたあと、そいつはきつく掌を握り締めた。
「……皆に、有り難うって言っといて」
「承知や」
「総司を……頼むよ」
「言われんでも」
「……、はぁ……総司ってほんっと昔から男の趣味悪いよね」
これなら一くんの方がよっぽどましだったよ、なんて言いながら苦笑いしたそいつは静かに目を伏せて、大きく息を吐き出した。
「行くよ」
月明かりに作った笑みが浮かぶ。
「じゃあね」
また、なんて声が聞こえてきそうな程軽やかに身を翻した藤堂くんは、狭い路地から更に細い長屋の間へと駆けていく。
その足音が遠ざかっていくのを暫く聞いた俺は、完全に気配が消えたのを確認して、方が付いただろう大通りの方へと体を向けた。
通りには沖田を受ける時に藤堂くんが捨てた刀が落ちている筈だ。
表向き、死んだことにしておく方があいつにとってもきっと都合が良い。
その為には少々細工をする必要があった。
置き去りにされているだろう死体の顔を、潰すという細工が。
少しばかり不自然でも幹部連中は簡単に認める。俺はただ、取り敢えずの体裁だけ繕えば良いのだ。
「こほっ。……あーさっさ済まして早よ帰ろ」
沖田の体を抱え直して俺もまたその場を離れる。
明るい夜。
すっかり冷えた体が、夜の空気に僅かに震えた。