飼い猫と、番犬。【完結】
火鉢の入った部屋で二人の母子のような会話を聞いて暫くのこと。
「こほっ」
「……珍しい、風邪ですか?」
ふと溢れた咳に直ぐ様反応をみせたのは沖田だった。
きょとんと首を傾げるそいつに笑みを返して、かいていた胡座を徐(オモムロ)に崩す。
「そら俺かて人間やさかいな、風邪くらいひくわ」
「……医者の不養生ですね。駄目ですよ、早く治さないと」
面倒をみている側である俺が風邪をひくのがそれ程意外だったのか、くすくすと小さく声を漏らして悪戯っぽく笑う。
けれど咳をするのは沖田も同じで。
すぐに咳へと変わったそいつの背を擦り、こつりと額を合わせた。
「ええねん、俺別に医者ちゃうし」
「っ!」
その距離感に顔を赤らめるのは沖田だけではない。
隣で目を丸くしている初な市村と目が合った俺はにやりと口角を上げて、固まる沖田に唇を寄せる。
「ほな俺はそろそろ行くしや」
「ーーっ!もうさっさと出てってくださいっ!」
僅かながらに大人なところを見せつけたところで、耳まで真っ赤な二人を残して立ち上がった。
これ以上長居をする訳にはいかなかった。
話のすり変わった今なら自然に部屋を出られる。
「ほなな」
そう、障子に手を掛けたところで不意に、猛る馬の嘶きがこの奉行所内に響き渡った。