飼い猫と、番犬。【完結】
局長が撃たれた。
早馬に跨がり戻ったのは同じ監察方の島田魁で。
物凄い形相のそいつがもたらした報せに隊内は騒然となった。
軍議の為に二条城へと出向いていた局長が帰路につくのを狙ったかのように現れた数人の男達。
島田曰く、あの日取り逃がした御陵衛士の残党だというそいつらが馬上にいた局長を撃ち、突如斬りかかってきたのだという。
右肩に弾を受けながらも伏見城まで落馬せずに戻った局長は流石とも言えるけれど、やはり流した血が多かった。
銃創など診たこともないここらの医者では大した手当ても出来ず、かといってこのままでは間違いなく命に関わる。
こんな時俺達に頼れるのは大樹公と共に大坂にいる良順しかいなくて。
出血の多いその人をあまり動かすのは良くないとはわかってはいても、今回ばかりは下坂はやむを得なかった。
あれから一晩が経ち、出発は明日。
少しだけ意外だったのは、沖田がそれについていくと志願したことだった。
「起きて……ますか?」
夜が訪れた静かな部屋に、布の擦れる音と沖田の小さな声が響く。
「起きてんで」
沖田に背を向けていた俺はゆるりと寝返り、そいつのいる暗闇に目を凝らす。
同じ部屋……ではあるが布団は別だ。
何故なら、間借りしている以上贅沢は言えず、部屋はどこも寿司詰め状態。
唯一若干のゆとりのある此処も、沖田を挟んだその向こうには市村が寝ていて。
流石の俺も、空気くらいは読む。
「……そっち、行っても良いですか?」