飼い猫と、番犬。【完結】
「やっ!」
すると沖田は思いの外強く拒絶をみせた。
大きくなった声に口許を押さえたそいつは、暫し固まり市村くんの気配を確かめて、部屋に響くその静かな寝息にゆっくりと緊張を解いた。
「……その、すみません、そういうのはちょっと……」
「なんで?お馬さんまだやろ、触るくらいええやん」
「なっ、ごほっごほっ!……な、なんでそんなの知ってるんですかっ。……そーゆーことじゃないんです」
「市村がおるからか?ええやん、寝とるて」
「……それもありますけど」
僅かに噎せたあと、何故か沖田は言いづらそうにもごもごと喋る。
これまで何度も肌を重ねた。
今更何をそう嫌がるのか。
理由がわからずそいつを見つめて言葉の続きを待つ俺に、伏せられていた目がちらりと向けられるも、またすぐに泳いでいく。
唇が、拗ねたように尖った。
「……触り心地、良くないですもん」
それは女心、というものなのだろうか。
静かな夜に消え入りそうな声で呟かれた言葉はとても意外で。
全く以て考えもしなかったそれに笑いそうになるのと同時に、頭の奥が冷えてゆくような歯痒さに、そっと、奥歯を噛んだ。
重なる衿をきゅっと握る指は、以前より……細い。
「……んなことないから手ぇ退け」
「っ、や……っ」