飼い猫と、番犬。【完結】


「やっ!」


すると沖田は思いの外強く拒絶をみせた。


大きくなった声に口許を押さえたそいつは、暫し固まり市村くんの気配を確かめて、部屋に響くその静かな寝息にゆっくりと緊張を解いた。



「……その、すみません、そういうのはちょっと……」

「なんで?お馬さんまだやろ、触るくらいええやん」

「なっ、ごほっごほっ!……な、なんでそんなの知ってるんですかっ。……そーゆーことじゃないんです」

「市村がおるからか?ええやん、寝とるて」

「……それもありますけど」


僅かに噎せたあと、何故か沖田は言いづらそうにもごもごと喋る。


これまで何度も肌を重ねた。
今更何をそう嫌がるのか。


理由がわからずそいつを見つめて言葉の続きを待つ俺に、伏せられていた目がちらりと向けられるも、またすぐに泳いでいく。


唇が、拗ねたように尖った。




「……触り心地、良くないですもん」



それは女心、というものなのだろうか。


静かな夜に消え入りそうな声で呟かれた言葉はとても意外で。


全く以て考えもしなかったそれに笑いそうになるのと同時に、頭の奥が冷えてゆくような歯痒さに、そっと、奥歯を噛んだ。


重なる衿をきゅっと握る指は、以前より……細い。




「……んなことないから手ぇ退け」

「っ、や……っ」
< 419 / 554 >

この作品をシェア

pagetop